翌日気遣ってくれる話
朝は非常に慌ただしかった。家にあげてもらった瞬間から無駄に求めてしまったという事実はあった。急ぐつもりもなかったけれど、積もりに積もったモノが大量にぶつけたようなものでもあった。
翌朝、仄暗い室内から脱してみれば浮き上がる数々の鬱血痕から目を背けた。艶やかな素肌の色、柔らかく跳ね返すような肌も指に少し力を込めてしまうだけで少し食い込むように形を変えた部分を見て見ないフリ。私をなんだと思ってるの?と怒りを通り過ぎたのか唖然としていたその姿。赤紅の痕だらけになっていた灼けていない肌を見て、また身体の中心が熱くなった。
そんな長い間の付かず離れずの関係は色々と拗らせつつあった。そう昨夜からの行為を指折り数えてしまいそうなくらいにだ。控えめに名前を呼ばれて、肩に回される手が小さく柔らかい事、いつもはそこそこ饒舌な口もどこか大人しくなってしまう事、それら全てがこちらを煽った結果であった。仕事だというのにギリギリまで求めてしまって、コーヒーすら飲めないじゃないと怒る姿すらが愛らしく見えてしまった。そして出勤間際、唇に彩りを加えた姿があった。
「っ、そのなんだ、今させてくれねェか?」
「い、今?」
「あぁ、」
「その、出勤…」
目を丸くして戸惑う姿にすら気持ちが昂っちまって、後退りしそうな彼女の身体を弄った。いや後退りはしていて背後の扉に背中を打ちつけていた。手をまわした腹なんて薄っぺらで、しっかり食ってんのか?と心配すれば大きなお世話だと言われた。分厚い扉に手と身体を預けつつの彼女の腰をもって欲望任せに押し付けて動いていたら、踵のある靴が倒れていた。
「っパウリー…、色々…考えてよ」
「すまねェ」
「船大工の…常人超えてるような体力と一緒にしないで…」
こちら一市民なんです、とふらつきつつ足元に丸まっていた下着を上げ、下のスーツのパンツを履き直している。気付かないうちにぬげていたヒールがある靴もはいていた。ジトっとする目線が突き刺さる中、ボソリともうしないと言う声が聞こえた。そんな日が昇りつつの中、自分達の身体はヤガラブルが運んでくれたわけであった。
「ンマー…ナマエ、風邪か?」
「ぁ、いえ、そんな事はないですよ」
アイスバーグさんからほんの少しだけ声が掠れているな、との指摘をされているナマエの側で素知らぬ顔をした。熱はないかと言われいて、どこか辿々しく大丈夫ですを繰り返していた。
まぁ、そうだろうよ。の一言が頭に浮かんでしまった。昨夜は流れるがままに、そして事あるごとに復活した。最後にはどんだけ溜まってんの!?と涙を浮かべつつ、腕にしがみついてくるような姿にすら下腹部に熱がいってしまった。いやしょうがねェ、不可抗力っつーもんがある。それに合わさるように絶え間なく開いた口からは妖艶な吐息やら声をあげていたからだ。それはもう心当たりしかなかった。
アイスバーグさんに説明した資料をおれの手元にも差し出してくる手がある。小さくて脆そうな手の爪は大人しい色をしている。昨夜一時、指の間を埋めるように絡み合っていたその手、不意にその手から目線を外せば低めの声で、聞いてますか?副社長という怨念が籠っているような声が聞こえてくる。返事一言、私はこれで失礼しますと冷ややかな言葉を口にしながらナマエは姿を翻した。
「…なんでしょう」
「あー…いや」
副社長である自分の事務室に近いその部屋、秘書のような仕事も行う事務員のナマエがいる。キョロキョロとあたりを見渡すも当然に誰も居ない。
翻したその姿を、思わず椅子から立ち上がってその手首を掴んでしまったらこうだ。ナマエは所謂仕事モードである状態は、しっかりと一線を引くタイプでもある。究極に言えば、触るなというばかりの状態である。恨めしいように睨まれたところで身長差的に小動物の威嚇にしかならないその姿。そんな女を昨夜組み敷いたと思うと途端に花が咲きそうな勢いの気持ちの高まりとなってしまった。窓の外含めて左右に目線をやり確認しつつ、目の前の身体を静かに引き寄せた。
「…ちょっ、ここ本社…」
「あー…そうだな」
「そ、そうだなって…、仕事してください、私も他の…」
「そのおまえの仕事よぉ…、明日に伸ばせねェか?」
「はい…?」
人の身体を握り拳でそこそこ強めに叩く女は、途中からこちらを見る事はしなかった。服の上からでも分かってしまう肉付きとその柔らかさから逃れるように背中に手を回した。髪から香るのはいつもの甘めな香りが鼻をくすぐってくる。それだけで呼び起こされる昨夜の事、おそるおそるナマエの腹部置いてみた片手。その奥を考え始めると何とも激しくしてしまったのかもしれねェ。
「ここ、大丈夫か…?」
「ぇ」
「そのなんだ…昨日ガッつき過ぎちまったしよ。いや、まぁ何つーか気持ち良すぎてだな。つい昨日だけだと思うと耐えられなくなっちまって…、朝も何も考えずに好き放題ついちまっ…」
「っパウリー…わ、分かったから…」
待ってくれとばかりに腹に置いた手に手を重ねられる。窓の外からは景気のいい職人の声が響いていた。こいつこやる仕事はあとは倉庫管理か?それならば他に急ぎの確認だけして…と脳内は段取りを組み立て始めた。
「な、なんつーか、その声もよ…いやほんの僅かだし、すぐに治るだろうけど、聞いてるだけで色々思い出しちまって」
背中に回した片腕に力を込めれば、何か苦しいとの文句があがる。腕の中に辛うじて見える耳は赤かった。
「パウリー…そのなんていうかハレンチです」
「ハッ!?」
何でだ、こっちは心配してんだとそのままに言葉を伝えれば呆れたような深いため息を吐かれた。そしてナマエの腹部をさすっていた手はどかされてしまった。トンっと、僅かに手を緩めたらナマエが胸に額をぶつけてきた。
「おい、」
「…少しだけこのまま」
顔を上げる事なく、額をこちらのスーツに押し当てて両手でスーツの一部を握ってくる姿。甘えのような部分を見せるような女じゃないからこそ、これはどんな珍事だとキョロキョロと辺りを見渡し、耳を研ぎ澄ませた。とりあえず廊下からの足音は今のところ聞こえない。僅かに開いた窓はナマエが毎朝のルーティンとして空気の入れ替えをしているからでもあり、生温かい風が時折吹き込んできている。見下ろすつむじが何を考えているのか、次に何を発するかを予想がつかない。
「その、お腹…は大丈夫だけど、その入れられてた感…あって。すこしだるい、かも…というか、恥ずかしいの…」
「お、おま…ぇなァァ…」
何つーハレンチな事を言い出すんだと言いたい所をぐっと堪えて、耐えて、辛抱したその瞬間には両手は背中に回っていた。艶めかしい事甚だしい、ンな事言われたらどうしたら良い、開店休業していいか!?と騒がしくなる脳内。うなじから覗く隠そうとしている赤い痕跡と白い肌のコントラストが眩しくて目が潰されそうであった。ぐずぐずと腺液に爛れた部分を求めてしまった昨夜、火照ったこの身体にと考え始めてしまい途端にもう数日復活する事はないだろうと思った部分に熱が上がり始めてしまう。いや、だから本社だろうがとナマエの背中に回した腕を必死に緩めた。
「っ、その今日仕事つれェ…とか、しにけェとかあったらよ…」
「ぇ、えぇっと…その副社長の顔見ていられないので、あとの業務は他の事務員さんに連絡とか頼んでいい…?」
絞り出したこちらの提案、それに対して完全なる塩過ぎる対応だ。あまりにつれねェ事務連絡である。けれど、腕の囲いの中から潤んだ目つきでも気丈に、そして朱色混じりの顔で見つめられればその要望を通さないとならないらしい。何しろパウリー副社長顔赤いですよ、とどこか照れつつ身体を擦り付けてくるような女を前にどうすることも出来ねェからだ。